女の子だけの集団下校。授業が終わった解放感とその時のテンションの上昇具合から、こういう話題が盛り上がるのはもはや当たり前なのだ。愛とか恋とかラブとか。こういう人がタイプとか、ああいう人は論外とか、誰と付き合っているとか、あいつと別れたとか。いわゆる恋バナというもの。エクスペルでは同年代の友人があまりいなかったプリシスにとっては新鮮でおもしろいものだった。仲間たちとの話も違った意味で十分に楽しいのだが、某トレジャーハンターに捕まっては面白半分にあれこれといらぬ検索までされて、それはそれは色々と吐かされたものだ。と言ってもこのハンターさんも愛する王子様のことを顔を赤らめて話す初々しい反面を持つのだが。しかし地球の女の子はかなり積極的な子が多いらしい。話を聞いているだけで分かる。今まで付き合った人数を指折り数える姿には驚いたし、やはり一番大事なのは経済力だよねーと同意を求めら得たときは、曖昧に笑顔を返した。若いのに将来を見据えた現実的な考えを持つようだ。他にも、それはあり得ないだろうという酷い話や、対してドラマのような素敵な出会いをしている子もいるようで、わいわいと賑やかに話題に花を咲かせながら歩いていた。
だが、それはあくまでも聞く立場として。矛先が自分へと向けられれば話しは別だ。
「そーいば、まだプリシスの話はノータッチだったよねー」
「うんうん。この機会にぜひ聞いておかないとねー」
「時間もたっぷりあるし、じっくりと聞きましょうかねー」
ねーと相槌を打ちながらも、にやーと笑っている友人たち。まだ地球の大学に来て、数カ月しか経っていないプリシス。それでも留学生というだけで注目を浴びており、その年齢よりも幼い容姿のせいか同学年の生徒からも可愛がられ、恰好の餌食となった。
「私……?まぁ、付き合っている人はいるけど……」
しかも同棲しているわけだが――これは言わないほうが良さそうなので黙っておく――自分のことを話すのは苦手だ。詮索されるのはセリーヌだけで十分。だからここは正直に話そう。さっさと話題から外れるためにも、一番良い。
「私がいうのもアレだけど、すごくかっこ良いよ。頭も良いし。向こうでは天才って言われてるぐらいだもん。代わりにみんなに話すようなおもしろい話題はないから」
これで終わりと話題を切ろうとしたプリシスだが、まさか逃がしてもらえるはずもなかった。
「それで終わりなんてなしだから。彼女がそこまで褒める人なんてよほどじゃない!どんな人なの!?」
どうやら話題の種を撒いただけだった。見事に食いつかれる。ものすごい勢いで迫ってくる友人たちを手で押しとどめて苦笑するしかない。
嘘は言ってない。恋人のレオンは誇れる人だ。だからこそ、話すのは躊躇われる。
地球では無名だが、エクスペルでは王室研究所で最高責任者の地位にいたこともあったレオンはそれなりに名が知られていた。今はプリシスと違う学部の大学に通う研究生だが、もちろん飛び級。容姿だってかっこ良いし、ふとした仕草に見惚れてしまうことだってある。そんな天秤にかけて自分とは釣り合わないレオンを紹介する自信がなかった。可愛い子なんて沢山いる。レオンが他の子を好きになることだって十分考えられる……なんて、過去に何度も思った。そのたびに『はぁ?僕がプリシスを逃がすとでも思ってるわけ?』なんてにやりと笑って、あれこれと言えないようなことを……。つまりだ、プリシスが躊躇う原因はそんな繊細なことではない。可愛らしい嫉妬や心配はすでに消えている。気がかりなのは、レオンのことを話すことで、ノロケになってしまうのならまだしも、それが完璧な愚痴――まぁ、これもノロケと言えばそうなる――になってしまうからだ。
「どんな人って……一言で言うと、偉そうな奴」
「それって褒め言葉じゃないけど?」
「褒めてないもん。第一印象だってそれはもう最悪で。絶対にこいつとは駄目だって思ってたぐらいだし」
「それでも今は付き合ってるんだから、相性がいいってことでしょ?」
「かもしれないけど、喧嘩だってするし、たまにぶん殴りたくなるぐらいイラっとくるし、いや、実際に何度かぶん殴ってやったけど!頭がいいだけあって言い負かされるし、なんか上から目線なのよ!」
「殴るって……どんだけなのよ」
「だってね!この前だって、あーでこーで、ああなって、結局言いくるめられて、あーなって!」
すでに何を言いたいのかすらも分からなくなったプリシスは、メラメラと思い出し怒りが湧いてきた。
あれはレオンが悪いはずだ。それを私が悪いみたいな感じで。それでまたいつのもパターンで。ちゅーすればなんでも誤魔化せるなんて思ってるんじゃないわよ!!
「とにかく性悪なの!」
「ずいぶんな言いよう。褒めたかと思えば悪口だし、一体どんなお兄さんなのよ?」
「へ?お兄さんって?」
「彼氏よ。プリシスの彼氏って絶対に年上っぽいもの。まーやっぱり付き合うのは年上のほうがいいわよね。我儘聞いてくれるし」
どうやらプリシスの見た目からして、付き合う相手は年上と決めつけられていたようだ。確かにプリシスのタイプは年上の男性だ。更にいうと金髪碧眼の王子様。まさにクロードのような人だったが、それは関係ない。実際に付き合っているのは年下生意気少年。確かに見た目は年上に見えるかもしれないが、お兄さんなんてとんでもない。
大きな誤解を解こうとしたプリシスだが、ヒートアップし背を向けて歩いていたせいで、正面から歩いてきた人に見事にぶつかった。
「おわわ……!」
バランスをとる間もなく前に倒れる身体は、しっかりと支えられた。相手が支えてくれたのだとすぐに分かるが、同時に大量の書類が地面に散らばる。プリシスを助けた引き換えに落としたのだろう。悪いのはこちらなのに、とんでもない迷惑をかけてしまった。慌てて書類を拾い集める。地面はコンクリートだからそこまで汚れてはいないが、大丈夫だろうか。ちらっと見ただけでも、とても難しいことが書いてあるだろう資料は、もしかしたらとても重要なものなのかもしれない。
ついた汚れを丁寧に払って、謝罪と共に書類を差し出したプリシスだが、相手の顔を見たとたんに、集めたばかりの束を再び落としそうになった。
「もう中身は全部頭に入ってるし、そんな大事なもんじゃないから、気にしないで」
これが見知らぬ人ならば、なんて親切で素敵な人なんだろうと思うが、現実は、うげぇ!!と乙女にあるまじき悲鳴を心のなかで上げてしまった。あんなに騒いでいた友人たちが目を丸くして、そろって頬を赤く染めているのだから、早くも嫌な予感的中。
「プリシス、ちゃんと前みて歩かないと危ないよ……こんにちわ」
一瞬息を飲み『こ、こんにちわ!』と大合唱の返答。やはりあの詐欺笑顔にやられてしまったようだ。にこりと笑うそいつは、噂をすればなんとやら。まさかこのタイミングでレオンに合うなんて最低最悪だ。もちろんプリシスには興味津々なみんなの視線が向けれているが、そんなことを気にしている暇もなかった。面倒なことになる前にレオンには消えてもらわなければ!レオンの場合分かっていて余計なことを言うので尚更だ。しかも恥ずかしげもなく恥ずかしいことをずばずば言ってくれちゃうので、本当に困る。そして困るようなことをこいつはおもしろがってするのだ。さすが付き合いの長いプリシス。そんな予感も見事に的中させた。
「今からクロードのとこに行くから、帰りは遅くなるよ。ちゃんといい子で待っててね」
そしてプリシスの頭を軽く撫でると去って行った。まるでいつもいい子じゃないみたいな言い方じゃないのよ!……って突っ込むところはそこではない。ほんとーーに余計なことを言いやがって。そしてレオンの姿が見えなくなると共に、待ち切れなかったかのように怒涛の質問責め。
「なに、あの人!かっこよすぎる!あのお兄さんがプリシスの彼氏!?」
「あんなかっこ良い人、滅多にいないんだから!殴るなんてとんでもないことを!」
「向こうの星にはあんな素敵な人がいるわけ!?どこであのお兄さん見つけたのよ?」
「あれのどこが最悪なの?すっごい、いいお兄さんじゃない」
口ぐちに褒めちぎる。あんなスマイルを見せられてしまえば、誰だって同じような反応を返すだろう。嫉妬深いところとか、独占欲が強いところだとか、過激なスキンシップとか……裏を見なければ、クールに見える。表面だけみれば文句なしにレオンはかっこ良い。それは認めるが、どうやらみんなはいまだに大きな勘違いをしているようだ。帰ってきたら絶対にレオンをぶん殴ってやろうと決めて、とりあえず誤解は解いておこう。
「さっきからお兄さんお兄さん言ってるけど……あいつ年下。14歳だよ?」
この衝撃的な事実には、全員、驚きを隠せないようで。後日、年下ブームが到来する。
【プリシスはBSの設定だと地球の大学生だとおもうので大学で恋ばなとか彼氏自慢した放課後に友達一緒の時にレオンと鉢合わせるというような話】
リクエストでいただきました。ちょっとしたおまけも書いたので後日アップするかも。