研究所でも大量の資料を読み漁っているというのに、わざわざ自宅まで持ち帰り、夕食後までもそれらを眺めているのは、忙しい日々に追われて時間がないから……というわけではない。たしかに時間がなかったというのは本当だが、研究が忙しいからではなくて、今日が2月14日で、例の如く大量のチョコの襲撃があったからだ。
ことあるごとに呼び止められ渡されるのに、仲間からは羨ましがられ、妬みを言われ、からかわれ……かなり慌ただしい一日だった。おかげで明日の講義で必要となる資料に目を通す時間もなく、持ち帰って来た。もちろんプレゼントされたチョコも大量に。
これで可愛い彼女が嫉妬でもしてくれるものならば嬉しいのだが、恒例になりつつある光景にはさすがに慣れてしまったらしい。一人ではとても食べきることはできないので、一緒に食べているぐらいだ。
箱に詰め込まれたチョコのおおよその数を思い出しながら、失礼ながらもレオンはざっと計算をする。
今回はどれだけの人にお礼を返せばいいだろうか。律儀に全員にとまではいかないが、顔見知りの人や同じチームの先輩たちにはお世話になっているお礼の意味で、3月には何かしらプレゼントしなければ。それからエクスペルにいる母親からも手紙と一緒にチョコレートが贈られてきた。心配をかけさせないように返事を出しておかなくては。
そんなことを考えながらも資料を捲っていると、ソファーが重みで少し沈んだ。
「まだ読んでるの?」
「もう終わるよ」
「レオンも大変だよねぇ。ふあぁぁ〜〜……」
欠伸交じりで隣に座ったのはプリシス。
大変だと言うのはこうやって資料を読んでいることに対してか、それともチョコを貰ってくることに対してか。
もし後者ならば、付き合っている間柄としては他人事すぎる発言になるが、これに対しては慣れすぎて耐性までついて、プリシスがヤキモチを妬くことなど滅多にあることではなかった。
かなり残念に思うが、なにぶん原因はレオン自身なので仕方がない。
「しかし、毎年すごいよね。減るどころか増えてるもん」
「おかげでプリシスは僕にまったくくれなくなったけどね」
年を追うごとに増えてくるチョコレートの数。
レオンとしては目立った行動はしていないし、交友関係もそこまで広いわけではないので、どうして増えるのか不思議に思う。おかげで一番欲しいプリシスからのチョコは、ここ数年貰っていなかった。
「……欲しかった?」
意外な発言を聞いたかのような驚きを含んだ声のプリシスは、レオンの肩に寄りかかってきて、上目に見詰めてくる。その表情はなぜか楽しそうで。
「欲しかったんだ?」
「……欲しいって言ったらくれるわけ?」
甘いものが大好きだというわけではないが、彼女からのチョコを貰って嬉しくないと思う人はいないだろう。しかもプリシスの場合、クロードやアシュトンにはしっかりとチョコを渡している。義理は渡して、本命は渡さないなんておかしな話だ。長い付き合いから、貰えないから不安になるわけではないが、不平等ではないか。
「うーん。用意してないからあげられないんだけど」
「期待はしてなかったからいいよ」
無意識にも少しトーンの下がった声に、まるで自分がヤキモチを妬いているみたいだった。
「なんか怒ってる……ごめんね?次はちゃんと用意するから……でも、そっかぁ、欲しかったんだぁ」
そう言ってぐりぐりとレオンの肩に額を押し付けて、嬉しそうに笑うプリシスの仕草が本当に可愛くて。一瞬でチョコレートのことなんてどうでも良くなってきてしまう単純な思考は、天才と言われ地球に留学している身としてはいかがなものかと思うが、レオンにとってはそれだけプリシスが可愛くて大切なのだ。
「来年は期待してるからね」
愛おしいプリシスの頭を自然と撫でながらも、レオンは手元の資料を捲った。

【リクエスト/レオプリでバレンタインネタ】
プリシスは義理チョコはみんなにあげてても、レオンにはなんとなく恥ずかしくてあげてないイメージがありました。