目を覚ましたシュタインが感じるのは、シーツの冷たさではなかった。 まだ日も昇っていない時刻のために、暗闇に目が慣れるまで数十秒。 シュタインがいるのは勝手知ったる研究室の自室のベッドの上……更に言うならば眠っているマリーの上である。

深夜に死武専から戻ってきたシュタインは、かなりの睡魔に襲われていたのだ。 研究のためならば連日での徹夜など平気でするが、鬼神復活の件で疲れもでている。 なによりも収めていた狂気が暴れだしそうで無理は出来ない。時間があるのならば休息するべきだ。 なので帰ってきてそのままベッドに向かったわけだが……そこにはなぜかマリーが寝ていたと。

顔を上げて見つめたマリーは安らかな寝息を立てている。 このベッドは数ある中で一番大きいので、寝心地が良いのかもしれない。好きな部屋を適当に使って構わないとも言ったので、文句はない。 だが、ここで寝るのはいかがなものか。 言いつつも起こさずに、マリーの鎖骨辺りに顔を埋めて寝ているお前もいかがなものだと思われるが。 しかも右手を置いている場所は自然に胸の上。部屋着の彼女は……柔らかい感触から……うん。つけてないな。 何をつけてないんだ!と突っ込んでくれる人もいないので、あっさりとスルー。
マリーがここで寝ている経緯の確たる証拠は、部屋のあちこちに落ちているビール缶や大瓶。 いつの間にか冷蔵庫にストックされている酒を風呂上りに飲んでいたのだろう。 日常でも見慣れた光景の一つだ。 それで酔っ払って、甘い言葉を恥ずかしげもなく言ってきたり、抱きついてきたり、キス魔になったり、という 迷惑だがおもしろい展開はなに一つない。なんせ見た目に寄らず酒に強い。酒で失敗した姿はみたことがなかった。 だから酔った勢いではなく、ここがシュタインの部屋だと言うことも承知の上で熟睡している。 信頼されているのか、一種の誘いか……きっと何も考えていない。イイ度胸だ。さすがデスサイズス。
シュタインとしては変なことをやらかす気持ちはないのだが、この無防備は危険度数が高い。 他の男に目を付けられたら簡単に食べられてしまいそうな気がする。 尽くしても最後は男に捨てられると嘆いていたようだが、はっきり言ってそいつらは見る目がないだけで――いや、恋愛については まったく関わりがないので断定はできないのだが――とにかく危ない。
マリーは優しい子だ。死武専の教師になってまだ数週間しか経っていないにも関わらず、打ち解けている。 何よりも他人を気にかけることができるからこそ、癒しの波長があるのだろう。 マリーが好きだ。これは友人としてパートナーとしての立場から。数少ない守りたいものの一つ。側にいて欲しい。 この感情もパートナーなのだから当たり前のこと……なのだろう。きっとそうだ。今はそう思うことにして、再び目を閉じた。
バラバラにしたときの血生臭い物体の体温ではなくて、安らげる人の温もり。しばらく忘れていた温かさ。 聞こえる寝息は心地よく、合わせて上下に揺れる柔らかい身体に委ねて、眠りに落ちた。

それにしても、キミ、寝心地良すぎだから
【六萬打リクエスト企画 暗闇の呼吸とリズム/甘いシュタマリ】