lucky-unlucky-day

雑誌の占いでは本日はラッキーデー。体調万全なあなたはなんでも出来る一日に。優しい彼の行動に、何か大きな進展があるかも…と。 所詮占い。もちろん当てにしていたわけではないのだが……体調がすこぶる悪い現在は雑誌を逆恨みしている状況である。 朝から少し調子が悪いと思っていたのが、午後の授業を残し急激に悪化してきた。 薬がすぐさま効かないのは承知の上で、多少の回復に望みをかけ、頭痛薬服用で授業に挑んでいるわけだが、やはり無理はするものではない。
マリーは小さな溜息をついて、教科書を睨んだ。もちろん内容はまったく頭に入っていないのだが、前を向いているのは辛い。 それでも少し顔を上げて周囲を見渡す。真剣に授業を受けている生徒は少なく、大半が寝ているようだ。 さすが午後の授業。眠気を誘うのは当たり前なのかもしれない。 続いて視線は隣へ。珍しいことに隣に座っているのはシュタイン。気まぐれ程度で授業に出ているようにしか思えないほどやる気のない様子は、 頭痛に悩まされているマリーからすれば羨ましい。 健康なことほど素晴らしいものはないと身に染みながらも睨みつけてやるが、気づきもせず欠伸をしているのだから……まったく憎らしい。
よく喜びや悲しみなど感情を共有することで、仲間との絆も深まる〜的なことが言われている。 実際に全員で何かやり遂げたときの達成感とか、試合に負けたときの敗北感とか、結果はどうあれ今後の人生に大きく プラスされることにはなるだろう。そこで、痛みも人と共有することが出来ると凄く楽だと思うのだ。 心にではなくて肉体に感じる痛みを分けるとい意味でだ。 例えば一人の痛みをクラス全員に分けることが出来れば、足元がふらつくような痛みすら蚊に刺された程度の微々たるものになるかもしれない。 つまりは共有ではなくて分散になるのだが、どうだろうか?……などと、出来ないような提案を無駄に投げかけてみる。痛みの波が押し寄せてきているために、くだらない考えまで浮かんでくる始末。
目を開けていることすら辛くなってきたマリーは机に肘をつき、額に手を当て俯く。痛みは酷くなる一方で吐き気すらしてきた。 抗議をしている教師の声も、蛍光灯の光さえも、神経を刺激する。 事情を言って保健室に行かせてもらえれば良いのだが、声を発するのすら気持ち悪くて出来ない。 あとどれくらいで授業は終わるのだろうか。あとどれくらい自分は耐えられるだろうか。 最悪倒れてしまうのではないかと心配になってきたところで……視界がぐるりと回った。 限界が来て倒れてしまったのかと思ったが、実際はついていた肘を引っ張られたせいでバランスを崩したのだ。 驚くよりも先に傾いた身体は、後頭部に柔らかい感触。数回瞬きをして、目で追える範囲で確認してみれば 上半身だけが横たわった状態で……見上げればシュタインの顔があり、自分が枕代わりにしているのが彼の膝だと気づく。理解したとたん一瞬痛みを忘れた。

「……っ、シュタ、イン……!」
「寝てなよ。無理されても迷惑」

まさか気づいていたとは。こちらを見ずに告げられた言葉に、慌てて起き上がろうとしたのを押し留められた。 2人が座っているのは都合が良いことに最後列の端。しかも周りはほぼ熟睡中なので気づかれる可能性は低い。 だからと言って膝を借りるのは色々な意味で遠慮したいところなのだが、断れるほどの余裕も無く、 容赦ない痛みに流されて、素直に甘えさせてもらうことにした。 大人しく身を寄せれば、彼の掌が撫でるように額から下がってきて視界を塞ぎ……体温が上昇しているのか、冷たく感じるそれは痛みを緩和させてくれる。 不思議と襲ってくる睡魔は安心できる空間のせいだ。
マリーは安堵の息をついて瞼を閉じた。……あながち雑誌の占いも馬鹿に出来ないものだ。

迷惑だといいながらも、裏腹に優しい彼の行動。これは少しだけ、ほんの少しだけ、自惚れてもいいのだろうか。
【六萬打リクエスト企画 lucky-unlucky-day/シュタマリの学生時代の甘々な話】