ソウルは本の背表紙でおもいきり叩かれた頭をさすりながらも溜息をついた。ものすごく痛い。そりゃ、悪いのは確かにこっちかもしれないが、本気で殴ることはないだろう。本当に痛い。きっとこぶになっているに違いない。己の失敗を後悔するが、言ってしまったものは取り消せないし、制裁も喰らったので痛みを素直に受け入れたほうが良い。パートナーの少女を怒らせたのは、まぎれもなく自身の発したいらぬ一言が原因なのだから。
普段からクールを目指しているソウルでもまだまだ思春期。家に住み着いているネコに面白半分で誘われては、鼻にティッシュを詰める。おかげで嬉しくもないある程度の態勢がついた。 しかし、あまりにも身近にいるせいで比較してしまうのである。パートナーとネコと、その体格差を。とくに目が行くのが――仕方がない思春期なのだから!と言い訳をしておいて――胸に。なにせあのネコは惜しげもなくその豊満なバストをさらしているのだから、見るなと言うほうが無理なのだ。 それで売り言葉に買い言葉で、いつものように些細な言い争いをしていた最後に、NGワードがぽろりと。『うるせー!このつるぺったんが!いつまでロリコン狙いでいるんだよ!』と。うん、これは言い過ぎた。 そして行くあてもなく死武専の屋上に来たソウルが再び溜息をついたところで――
「なにか悩みでも?」
「っ!!び、びっくりした!……博士かよ。いきなり出てくるなって」
――まったく気配を感じなかったせいで、派手に驚いた。声をかけてきたのはシュタインだ。きっと無意識なのだろうが、気配を消すのがうまい。ただマックス落ち込みモードのソウルが気付かなかっただけで、きっとソウルよりも先にこの場にいたのだろう。
なんでもないと、返そうとしたソウルだったが、思いとどまる。これは助言を求めるチャンスかもしれない。目の前にいるのは的確な指導をしてくれる教師だ。ただ相談したい内容が内容なだけにどうだろうか……と思うところがあるが、他に聞ける人もいないので、直球に質問した。
「悩みってわけじゃねぇけど……胸って揉むとでかくなるってマジな話し?」
喧嘩したから仲直りの方法を教えてほしいとか、そんなことは聞こうとは思わない。謝れば、きっと許してくれる。ソウルが悩んでいるのは今後のことである。このままマカの成長がおもわしくなければ、また同じようなことが起きかねない。うっかりと言ってしまうかもしれない。だから、それを回避するためには、胸が大きくなればいいのでは?と思うわけだ。 マカからすればまったくもって大きなお世話だと思うが、ソウルの立場でも……まぁ、イロイロなことで重要になってくる。
「恋人に揉んでもらうと大きくなる。またはやらしーこと考えながら自分で揉むと大きくなる」
「な、ま、マジでか?」
「……とスピリット先輩が昔言っていたような気がする」
あのシュタインからのびっくり発言かと思えば、エロ親父からの情報だった。まったく信憑性がない。
「でも医学的には嘘かも。ただ、揉むとホルモンの分泌が良くなるってのはあるかもしれないけど。一般的には筋トレしたりサプリを飲んだりするんじゃないかな?あとキャベツや、大豆製品を食べるのもいいらし。健康でいることももちろん大事だと思うよ。……でも、そんなこと気にしなくてもまだマカは成長途中だし、急ぐ必要はないと思うよ?今後に期待したら?君が余計なことを言わなければ、喧嘩することも殴られることもないだろうしね」
痛いところを突かれた。見透かされていたようだ。どうして殴られたことまでバレているのだろうか。あ、やっぱコブ出来てる?
しかし、キャベツと大豆にそんな効果があるとは。この手の話しにはまったく興味がなさそうなシュタインだが、さすが博識だ。ここで、万が一でもデスサイズに話して(激怒するだろうから、マカの名前はもちろん伏せて)、揉むといい!なんて本気で言われてたりしたら、えらいことになっていた。シュタインに聞いて良かった。やはり信頼に値する教師なのだと、こんなことで再確認したソウルだったが、実は、シュタインのびっくり発言は、これからだった。
「マリーも学生の時は似たような体系だったけど、今はこんくらいあるしね」
シュタインは両手を開くとやや指先をまげて、まるで見えない何かを掴むかのような手の形で、『このくらい。少し大きいほうじゃない?まぁ、マリーに関しては大きさなんて関係ないし、揉むと大きくなるってのも、あながち……』とヘラヘラ笑う。問題発言が続いた。ちなみに最後の台詞は聞いていないことにする。何がこのくらいなのか。もちろん、会話の流れから分かる。マリーの胸の大きさを手で表現しやがった。つまり触ったことが、いや、揉んだことがあるのか。ナチュラルな発言から、もしかしたらエロ親父よりも、そうとう危ないかもしれない。少し信頼にヒビが入った気がした。
最後のフォローいらねぇ!その手はなんだ!何かを解体するためのものじゃないのか!おっぱい揉むものなのかよ!なんて言えるはずもないので、心の叫び。しかし、色々な意味で怖くなったソウルだが、ふとマリーを思い出して、そしてマカを思い出して。
「あのまな板がマリー先生ぐらいになるのか……?ある意味奇跡?」
自分の掌を見たところで、ソウルが分かるはずもないが、なんとなく手を広げて大きさを想像してみた。

【極めろフリーハンド/ソウルとシュタイン】
続編でマカとマリー先生サイドを書きたい。