波長を拒んでいるのに、拒もうとしているのに、内から強引に入ってきて絡めとられる。外から閉じ込められて、押し込まれる。 最強の職人は、最悪の形となって武器を振るう。
地下に断続的に響く音は、がんがんと地面を叩きつけている音と、ぐちゃぐちゃと何かを踏み潰している音と、ぴちゃぴちゃと血溜まりをはじく音と。
地下に見えるものは、がんがんと叩きつけている地面と、ぐちゃぐちゃと踏み潰している何かと、ぴちゃぴちゃとはじく血溜まりと。
――狂った行動は怖いほど機械的なもので、一定の感覚で叩く、叩く、叩いて、潰す。
耳を塞ぎ目を背けたくなるさまざまなものを、聞いて見ていた。そして感じていた。
聞きたくもないのに耳に入ってくる。見たくもないのに瞳に入ってくる。そして感じたくもないのに、全て流れ込んでくる。嫌なものが大切なものをどんどん消していく。
職人に身を委ね戦っていた武器は身動きがとれず。人の姿に戻ることも出来ず。力任せに振り払おうとするほど、両手を両足を封じられ磔にされ――しかし、それでも声を荒げた。必死に呼びかけた。力の限り抗った。
マリーを振るい降ろそうとしていたシュタインの腕を、シュタインの意思に反してマリーの意思で無理矢理に止めた。

「マリー……どうして止めるの……?」
「(だめ、……これ、いじょ、は、だめ……)」
生温かいのは血なのか、それともシュタインの体温なのか……判断がつかないほど、色々なものがバラバラになっていた。バラバラになって分からなくなっていた。
原型さえ留めていないほど魔槌で殴られたそれは、もはや息をしている様子はないというのに、どうしてマリーを何度も何度も振るい続けるのか。一歩間違えばこちらが殺されていたかもしれないのに、どうしておかしいぐらいに、とてもとても楽しそうなのか。
何も考えられないから何も分からないが、先に進んでしまっては二度と戻れないことは嫌でも分かる。
「逆らうの……?」
「(必要な、い。もう、敵は……)」
「肉体も魂もバラバラにしないと意味はない。分からない?君は俺のパートナーでしょ?」
「(だからこそっ!だから、止めて……このままじゃ、戻れなく、私、たち……っ!!)」
数秒が限界だった。もとより武器が職人の意思に反して動きを止めるなど、不可能なのだ。重力に押しつぶされるような力が全身を襲う。
「戻れなくなる?何を言っているんだ……!!」
見当違いの回答を厭きれるかのように叫ぶシュタインに再び抑え込まれる。狂気に引きずり込まれる。逃げ出さないように縫い留め、暴れないようにネジて固定し、目の前にある扉に鍵を掛け、能力だけを生かされる。

マリーの声がシュタインに届かなくなった時。
へらへらと嗤う狂気が支配した時。
パートナーという関係が消えた時。
――武器は道具に、職人は**に変わった瞬間だった。

魔槌を繰り返し叩きつける元職人は、ただただ嗤っていた。
「俺は、君も、とっくに戻れないんだよ」
【**のモーメント/シュタインとマリー】