「ねね。私のどこが好き?」
さも当然、好きなところがあって当たり前という口ぶりだった。
仰向けになって天井を見つめていたシュタインは、視線だけを動かして隣で寝転がっているマリーを見た。
上半身だけを起こし頬杖をついて両足をぱたぱたと動かしている様子は、まるで子供のようで、向けられる右目も期待に満ちている。
シュタインは隠すことなく溜息をついて、再び視線を天井へ戻す。
「なに?無視するき?」
「別に……」
「あのね。そこはお世辞でもいいから気のきいたことを言うべきでしょ?」
「全部好きだよ」
「うわ!なにそれ!わざとらしい!」
「じゃあ、顔が好き」
「そこで顔って言う!?しかもとってつけたような言い方で!」
お世辞でも良いからと期待に応えてみれば非難され、ならばとストレートに褒めれば怪訝顔され、面倒なことだ。突然、変な質問をされたこちらの身にもなって欲しい……否、突然でも、変でもないのかもしれない。
仕事を共にし、生活を共にし、さらにはベッドまで共にし、それも共に裸で。この状況からすれば一般的には恋人となり、面倒臭いなんて考えが間違えで、脈絡のある可愛らしい問いかけには、髪を撫でてキスをして、満足のゆく言葉を返すべきなのだろうか。
しかし、残念ながら(?)甘い言葉を囁いたり、愛を語らったりはしない。シュタインとマリーは恋人ではない。恋人ではないがパートナーではある。それが意味するのが職人と武器という仕事上だけのことではないのは確かだが、どう言えばいいものか。
友達以上恋人未満もまた違う。それ以上であって、それ未満ではなくて、それに当たるものが何なのかが分からず、関係はあやふやなものだ。ふとしたことで崩れてしまいそうなもの。それでも保ち続けているもの。
いつまで続くのか分からないが、少なくとも当分は続くと確信めいたものがあるのは、ただの自意識過剰なのかもしれない。しかし、マリーからこの関係を崩すことはない。
根拠なんてなにもないけどマリーは絶対に俺を見捨てたりしない。壊すのも手放すのも自分だと、シュタインは思う。
一方で、いつの間にか彼女が居る生活に違和感を感じなくなり、彼女とのいろいろなことが当たり前になっていたことには、気づかないようにしていたはずなのに。
だから、どうしたものかなぁ……と。
マリーのどこが好きとか嫌いとか、考えたこともない。それなりに長い付き合いなので、良いところも悪いところも見えているが、シュタインにはどうでもいい。
良いとか悪いとか好きとか嫌いとか……へぇ、それで?って。
本当に、どうでもいいことだった。興味が無いから、ではなくて。その真逆だから――
「はぁ……分かってたけどもう少しマシな言い方できないのかしら」
いじけた口調で、ついていた肘を伸ばして枕を抱きしめるマリーのその枕を、左手でシュタインは引っ張る。同時に寝がえりを打って、右手で細い腰(本人曰く最近太ったという)を抱き寄せた。
「なによ。抱き締めても誤魔化されないわよ?」
「誤魔化されてくれないのなら、また、これ以上のことやっちゃうよ?」
にやりと嗤うと、マリーは訝しげに寄せていた眉をより険しいものにして……諦めて大人しく腕の中に収まるのか、はたまた挑発を返してきて、これ以上のことをするのか。
それはまた別の話で。
――マリーの全てが嫌いではない。
【all/シュタインとマリー】