「ねね。シュタインって私のどこが好きだと思う?」

さも当然、好きなところがあって当たり前という口ぶりだった。
姿勢よく座って資料に目を通していた梓は、視線だけを動かして目の前にいるマリーを見た。
机に両肘をつき、絡ませた指に顎をのせている様子は、まるで取り調べをしている刑事のようで、向けられる右目は用心深いものだった。
梓は隠すことなく溜息をついて、再び視線を資料へと戻す。
「なによ。梓まで無視するき?」
「別に……」
「あのね。そこはお世辞でもいいから……」
「気の利いたことを言うべきでしょ?とか、なんとかシュタインさんに聞いてみたんですか?」
「むぅ」
「図星ですか。大丈夫ですよ。シュタインさんはマリーさんにぞっこんじゃないですか」
「うわっ、また思ってもないことを言う!どうせ私は興味も関心もない、うすっぺらぺらな女なのよ!」

ずばり言い当てればむすっとされ、フォローしてみれば泣き言を言われ、面倒なことだ。
毎回、変な質問をされるこちらの身にもなって欲しい……否、もう慣れたので気にしない。
そもそもシュタインさんはマリー先輩のこと好きなんですか?なんて根本的な疑問を口にするのは愚かだ。
マリーとシュタインは仕事を共にし、生活を共にしている。どのような生活を送っているのかと突っ込んで聞いたことはないが、この状況からすれば恋人に近い関係に見えてもおかしくはない。好きでもない相手を自分の家に住まわせないだろう。だから、何かしらの好意を持っていると判断できるはずなのだ。あくまでも一般的には。
しかし、残念ながら、相手がシュタインとなると、誰がどう見ても恋愛の類には結び付けるのは難しいのだ。

それでも、職人と武器という関係を除いても、シュタインとマリーは良いパートナーだと思う。ただ、ふとしたことで崩れてしまう未来もあり得ることは、言うまでもなく本人たちは分かっている。シュタインはきっとマリー以上に。
シュタインはマリーが自分のことを見捨てることは絶対にないと確信しているはずだ。 自分からマリーを突き放すことがあっても、マリーが自分を突き放すことなんてないと。
狂っているくせに、差し伸べてくれる人がいることはとてもとても幸運なことで、だからシュタインは卑怯だと思うのは、もしかしたら嫉妬しているのかもしれないし、だからなんとなくだが、シュタインの想うところがわかるような気がする。
好きとか嫌いとか、そんなことはどうでも良いのだろう。関心が無いから、ではなくて。むしろその真逆で――

「はぁ……分かっていたことだけど、梓にまで否定されるとちょっと落ち込むわっ!な、なに!?」
いじけた口調で机にうつぶせになるマリーの頭に、梓は資料の束を落とした。
「痛い!なによこれ」
「否定してませんよ。むしろ、マリーさんほどシュタインさんに好かれている人はいないと思いますけど」
「もう!適当に言って追い払おうとしてもそうはいかないわよ!」
「出ていくつもりがないなら、それ読んでおいてください。どうせ後で渡すつもりでしたから」
睨み返すと、マリーは訝しげに寄せていた眉をより険しいものにして……文句を言いながらも資料を捲るのか、はたまた梓の邪魔をするべく愚痴という名のガールズトークに突入するのか。それはもちろん後者の方で。

――マリーの全てに興味があるのだろう。

【all2/梓とマリー】