(原作62話妄想 シュタインとマリーとスピリットと死神様)

シュタインに促されてテープレコーダーを再生したマリーだが、一瞬己の耳を疑った。旅の疲れが出て幻聴が聞こえたのかと思った。 思ったではなくて、絶対に幻聴だと信じたかった。なんせ犯人との会話を録音したはずのテープレコーダーから聞こえるのは自身の声。マリーも犯人と話しているのだから当たり前なのだが。しかし、絶対におかしい。あり得ない。放心状態の耳に嫌でも入ってくる声は、会話になっていないから。 何を言っているのか聞き取れないから。まともなことを話せる状態ではないから。 言葉の否定を並べて泣きながら、途切れ途切れに彼の名を呼んで喘いでいるこれは……。
「……っなによこれ!!!」
放心状態から開放され、力の限ぎりテープレコーダーを床に叩きつけたマリーは、シュタインの胸倉を掴んだ。 身長に差があるため無意味なのは分かっていても締め上げずにはいられなかった。
『んっ……シュタイ……ン……やだ、こんな、やめ……ひぅっ』
テープに入っていたのは間違いなくシュタインと……その、なんというか……色々とあったときの音声で。 誰がこんな最中の様子を録音しているだなんて考えるだろうか。いくら相手がシュタインだとしても……違う。 シュタインだからこそやりうると納得できる悲しい事実がある。常識人のようで、変なところでモラルだとかプライバシーだとか、 人として守るべきものがやや欠けている変態野郎だと今更ながらに再確認した。
仮に百歩譲って録音したことは広い心と愛情で許すとしよう。しかしスピリットと死神に聴かせるなど…許す許さないの問題ではない。
「最悪!最低!外道!変態!」
「君の声が可愛いから、録ってみた」
『録った』じゃなくて『盗った』が正しい。
思いつく罵倒を浴びせても気にする様子もなく、完璧な犯罪でもある盗聴を暢気に明かしてくれるシュタインを本気でぶん殴ってやりたい。 実際に殴ってやろうともしたが、まずレコーダーの回収が最優先だった。叩きつけたときに壊せなかったのを悔やむ。 自分でも耳を塞ぎたくなるような声をこれ以上聞かせるなんて、恥ずかしすぎて生きていけない。 幸いなことに犯人との会話はしっかりと覚えているので、一刻も早く処分……しようとしたが手遅れだった。 レコーダーはスピリットの手の中に。その苦々しい――しかし、どこか期待に瞳が輝いているように見える――表情は、マリーに嫌な予感しか与えなかった。
「俺も出来れば聴かないでやりたいが……犯人の自供が入っているなら、そういうわけにもなー。仕方あるまい」
「なんでそんな楽しそうな顔してるんですか!だいたい犯人との会話は私がちゃんと覚えて……」
「マリー諦めなよ。大丈夫、多分ほんの数十秒しか録ってないから」
「五月蝿い!シュタインは黙ってて!私には耐えられないの!……死神様お願いしますっ!」
最悪な流れに向かっているのを食い止めるべく、最終判断を下す死神に泣きつくが……
「う〜〜ん。ごめんねマリーちゃん。つーことで、さらーっと聞いてみようか」
「そんなーーーーー!!!」


5分後

「いや〜、マリーの喘ぎ声しか録れてなかったですね……犯人との会話の上に重ね録りしちゃったようです」
「「いや〜」じゃねぇよ!何のためにお前を逃がしたと思ってるんだ!羨ましいことしやがって……」
……なんと惨い。本当に全て重ね録りされていたテープは、ことの激しさしか物語っていなかった。
恥ずかしいという感情は既に消されている。代わりに浮かぶ笑顔は怒りのパロメーターが壊れたせいだ。おかげで言葉が何も出てこない。出てくるのは乾いた笑い声と、なぜか流れてくる涙だけだ。
「死神様……こいつらぶっ飛ばしても?」
「オッケーー。どーんとやっちゃって」
まるで狂気に支配されたような笑顔のマリーによって、デスサイズと最強職人は、どーんとやられます。

エロスな展開を期待してしまうのは仕方がない。