(いつかちゃんと書いてみたいネタ.12 シュタインとマリー)
「ハッピーバレンタイン」
「どうも……つーか、これ誰からの?」
「ん?生徒から。数十人分」
マリーは両手で抱えていた箱をシュタインに渡した。
用があって死武専に行ったのだが、休日にも関わらずに数多くの生徒の姿。補習でもしているのかと思いながらも廊下を歩いていたところ、なぜか女の子に呼びとめられてばかり。ある子は顔を赤らめて、ある子はやけに自信満々に、さまざまな表情でマリーに手渡すもの。共通しているのが手に持っているチョコと、『シュタイン博士に渡してください』の一言だった。
なるほど、このために学校に来ていたのか。あいにくシュタインは研究所で引き籠もっているので、みんなの期待を裏切ることとなった。だからマリーが頼まれたわけだ。それが1個や2個ならば快く引き受けるものの、義理本命含め、箱まで必要なほどの個数になると、さすがに……。
しかし、納得はできる。危険発言危険思想な奴だが、その実力は確かなもので信頼も厚い。生徒にとっては良き教師であり、尊敬できる職人でもある。だから、このチョコの数も妥当なのかもしれない。本人はまったくの無関心なのだが、マリーとしては複雑な心境だ。そこに横槍が。
「誰にもあげない……あげる相手がいないってのは悲しいね。そう思わないマリー?」
「それ私に対しての嫌味?余計なお世話よ。あのね、そんなこと言ってるけど、私はシュタインにはチョコよりも良いものをいつもあげてるんだからね」
「ほぉ……それは初耳。もらっている自覚はまったくなかったけど、何をくれていたのかな?」
完璧に馬鹿にした顔で言ってくるので、腹が立ったマリーは……考えもなしに、勢いでぽろっと言ってしまった。
「愛情よ!!」
きっぱりと言ってから、うわぁ何言ってんだろう、と自分自身で呆れたぐらいだ。なにが愛情だ。シュタインに対して愛情とか……ねぇ?どうなのよ。というか、ものすごく恥ずかしい。
しかし、目の前のシュタインはへらへらと笑って、わざとらしく頷いていた。
「あぁ、そうかそうか、愛情ね。俺に愛情をくれていたわけなのか」
「……自分でも取り消したい発言だから、忘れてちょうだい」
「なんで?今後も頂けると嬉しいけどね。俺には確実に欠けているものだし。まぁ、これからもイロイロとよろしくってことで」
そのイロイロってニュアンスが気になるところだったが、ぽんと頭を叩かれて、マリーは素直に頷いたのだった。
(……愛情ね。君は当たり前のようにくれていたから、そのこととは思わなかったよ。)