無神経だとか、いきなりすぎるとか、彼女からは不満の声があがっていた。
確かに時や場所を考えて物事を進めようと思ったわけではなく、本能が求めるまま。しかし雰囲気なんてわざわざ
作る必要もない気がして――面倒臭いというのが一番の理由になる――早い話し、こちらの流れにのせてしまえばどうとでもなる。
そもそも求めた時に彼女が応えてくれるから必要ない。
ぽっかりと穴が開いたような気分の時。自分でも分からないが淋しいと思った時。
もっと言えば、狂気に押されてなにかバラしたくなる時でも、手を伸ばせば彼女はそっと掴んでくれる。
好きだ愛していると一言も言ったことはない。それなのに受け入れてくるのは癒しの波長を持つ彼女の優しさなのか。
でも今夜は穏やかな満月。研究室にある小さな窓からでも微かな光が静かに差し込んでいた。たまには努力もしてみよう。
膝の上に乗せた彼女にキスをする。今までの手順も踏まずに飛び越えて貪っていたのを止めて、優しく軽い口付け。
すぐに離れたのを不信に思った彼女が首をかしげたのに、笑いかけてそっと髪を撫でれば顔を赤くした。
女タラシの先輩に聞いてみたところ、やはり雰囲気は重要だとか。
「てめぇのペースに相手を巻き込むなんて、ただの飢えた狼だろうが!」「……まぁ、否定はしませんけど」「否定しろよ!」と言う会話をした記憶がある。
余裕の無さから気持ちが逸るわけではなく、執着が強いらしい。特に狂気が絡むと……と真面目な顔で心配してくれた先輩の言葉はありがたく
いただいたが、その後のああだこうだと自分の体験あれこれも交えて話し始めたのは、すべて聞き流した。
しかし、今回は不満もないだろう。
証拠にこちらを見つめる彼女は戸惑った様子はあるものの、目を閉じて身を寄せてきたのだから続きを催促されている。
それならばと再び唇を重ねた。少しずつ時間を延ばし少しずつ深く。抱き締めるのにちょうど良いサイズの彼女を腕の中に閉じ込めると、
必ず強張っていたはずの身体はこんなにも柔らかい。必死にしがみ付くのではなくて、甘えるように服を掴んでくれているのを見ると、
今まで相当彼女を追い込んで及んでいたのが良く分かった。なるほど。これは大切かもしれない。納得しながらも、より彼女の感触と味を確かめる。
唇を舐めて催促すると、小さく開かれた口と遠慮気味に触れた舌をこちらは無遠慮に絡めた。
息を吸うために解放する瞬間すら惜しい。素直に受け入れてくれる彼女の時折混じる鼻に掛かった息遣いは理性を次第に削ぎ落とす効果をもたらす。
すっかりと身を預けてくれている背中に回していた片方の手は、既にブラウスのボタンを外しに掛かっていた。
同じゼロ地点に、一つになりたいと、隔てるものが全て邪魔に思えてくる。なんとか気持ちにブレーキをかけながら次への準備段階に入るため、
ぶつかっていた顔を離して眼鏡を外した。その間に肩で息を整えている彼女が一言。
「っはぁ……ねぇ……シュタイン」
「ん……?」
「こうやってキスしてるときに……攻撃意思をもって体内発電したら……あなたは感電するかしら……?」
熱を帯びた眼差しで、甘い吐息を漏らしながら何を言い出すかと思えば。そんなの知りませんから。
何を思ってこの状況でそんなことを言ってくれちゃったのか分からないが、顎に手をあてて真剣に考え始めてしまうほど
気になることではないだろうに。頭に疑問符が浮かんで、場の空気と比例して気持ちも冷めた。
彼女……マリーが望んだ雰囲気を作ったというのに、自らぶち壊してくれるとは。悪気がないだけあって性質が悪すぎるだろう。
【六萬打リクエスト企画 15Title力と感覚より/シュタイン×マリーで、ラブラブなやつとか、ちょっとHなやつ】