不思議な香りを発するキャンドルが無数にある部屋で、スピリットは眉を寄せて苦々しい顔をし、
隣にいるシュタインは対照的にへらへらと笑っている。
ここは2人が学生時代の時にも使用したことがある部屋だ。ただのアロマキャンドル部屋なんて侮ってはいけない。
キャンドルの香りは気を荒ただせる。ここで職人と武器はお互いの欠点を言い合うのだ。
単純で無意味なトレーニングだと思われる――実際にスピリットもそう思っていた――が、油断できない。
乗り越えれば共鳴率は上がるが、シュタイン考案なだけあり惨い。
「いやー……懐かしいですね」
「……俺にとっては最悪な思い出しかないがな」
過去に自らも体験していたりする。この陰険シュタインと。
初めはトレーニングだと言うことも忘れ、今までの鬱憤を晴らすがごとく悪口を言いまくったスピリットだったが、
なんせシュタインはまったく表情に出さない上に、スピリットの確実な弱点ばかりを突いてくる。
女にだらしないとか、いつか女に捨てられるとか……的確な予言となった。妻とは離婚、マカの親権も向こう。
根本的に馬鹿だとか、鈍いとか……まさか寝ているときに実験に使われていたとは思ってもいなかった。
とにかく全てが事実で反論出来ずに、半泣き状態で言い訳している情けない先輩になっただけだった。
シュタインは天才職人。興味さえ湧けばある程度の武器は使いこなす。センスも実力もある。
結果、共鳴率を下げる効果しかださなかったトレーニングでも、スピリットとの波長は乱れなかった……心は大いに傷ついたが。
「俺はもう絶対にしないからな。本当はこの部屋だって来たくなかったしーー」
「だったら来なければ良かったじゃないですか。先輩が来たいって言ったんでしょ」
ここに来たいと言い出したのは他でもないスピリットだ。マカとソウルが同じトレーニングを受けたと聞いて、
ただ単純にマカとの話題作りのネタになるかと思っただけなのだ。
何を話しても冷たい視線を受けやすい状況を打開すべく、共通の話題で盛り上げようと考えたのだが、欠点を言い合った場所での
話題など盛り上がるはずがない。それよりか機嫌を損ねてしまう可能性が高い。そもそも自慢の娘に欠点なんてあるはずがない。
「あぁ!いいアイディアだと思ったのに!」
「ま、そんなもんですよ。なんならまたここで実践してみますか?せっかくですし」
「お前人の話し聞いてないだろ!ってかお前はいつもそうなんだよ!」
まったく人の話しを聞かない。先輩として少しでも敬われたことすらない。
もう二度とやらないと宣言したばかりだと言うのに、のうのうと提案してくるのだから完璧に舐められている証拠だ。
だからお前は陰険なんだよ!このツギハギ馬鹿やろう!などと子供レベルの悪口を言うとしたところで、はっとした。
恐ろしいことに、キャンドルの香りにいつの間にか当てられていたようだ。
さすがにこの年齢になってくだらない言い合いはしない。と言いつつ普段似たようなことをしているが。
ここは冷静に、大人としてデスサイズとして対処しなければならない。
「はぁ……本当にお前、なんも変わってねぇよな」
「そーですか?」
「そーですよ。つかさ、俺とじゃなくてマリーとしてみればいいじゃねぇかよ」
「マリーと?」
シュタインが再び行うのならば、現パートーナーであるマリーとだ。
組んで日も浅いし、やっておいて損はないはずだ。共鳴率が上がることは今後も強みになる。
何より、シュタインとマリーが欠点を言い合うなどおもしろい光景ではないか。
マリーは波長の通り、のんびりしていて人を和ませる。しかし実践での行動力は十分なものだ。
そんなマリーがシュタインにどれだけを罵声を浴びせてくれるのか、ぜひとも見物してみたい……と言うのが本音だったり。
言い返せなかった自分の代わりに、少しでもシュタインがダメージを受けるようなことを言ってくれれば……こんな考えが
大人としてデスサイズとしての対処なのか。仕方がない。過去を思い出し、現在のぞんざいな扱われ方が悔しかったんだ。
とにかくシュタインが怯む姿が見られれば良いわけなのだが――
「あーー……それは無理ですよ」
「はぁ?なんでだよ」
「いや……俺、マリーに激甘ですからねぇ。本気で色々とイジメちゃいそうで」
「……おい、お前なぁ」
「あんまりにも可愛いから、俺も止められなくなる。そうなると困るでしょ?」
――へらへらと笑って、言い放たれた。あの研究にしか興味がないシュタインに。
好きな子ほどイジメたくなる的なノリかよ。しかも独り身の俺に対しての嫌がらじゃねぇか。
やっぱりお前はいつでも俺を馬鹿にして……!!
結局ダメージを受けたのはスピリットで、地団駄踏むしかなかった。
【減ることの無いトラウマ/スピリットとシュタイン】
しかし、まさかお前がそんなこと考えているとは思ってもなかった。