(いつかちゃんと書いてみたいネタ.03-1 シュタインとマリー)

背筋をまっすぐ伸ばしソファーに座るマリーは、膝の上に置いた手をぎゅっと握る。 とにかく今は耐えるしかないのだ。脳裏に浮かぶものを必死に追い出そうとする。 しかし目にしたが最後、頭部をおもいきり強打しなければ忘れることは不可能だと思わせるほど、それは鮮明に記憶に妬きついており、それでも最大限の努力を試みているというのに……向けられる視線が逆効果になっていた。 へらへらどころか、ニコニコと表現しても良いぐらいの気持ち悪い笑顔を浮かべているであろうシュタイン。 日頃の行いに対する油性マジックによる復讐は、あっさりとバレてしまった。しかも現行犯逮捕。 なんせ落書きしたのを満足にシュタインの上で寝こけていたのだから、当然と言えば当然だ。
「マリィー?なんで顔を逸らすのかな?」
「……お願いだから今は話しかけないで。ちょっとでも気を抜くとまずい」
この状況でシュタインの顔――額に書かれた文字。瞼を閉じてもそこには目。頬にはナルトマークなど――を直視して、我慢できるはずがない。 かなりご立腹でいらっしゃるのは承知しているが、最高傑作を前に大爆笑して、怒りを買うだけになる。 だから顔を見ないように真逆を向いていたのだが……生暖かい感触を首に感じ、近すぎる気配。そしてチクリとする痛みと。 マリーが事態に気づいて言葉を発する前に、そこにはすでに赤い痕が残されていた。
「な……な、なんて、ことすんのよぉ!」
「よく言う。なかなか消えないものを俺にくれたから、そのお返し」
「〜〜っ!だ、だからって……っふ、く、う……あはははは!やっぱ駄目!それ我慢できな……っ、ふははは」
「……」
唇が押し当てられた場所を押さえて抗議したマリーだが、うっかりと真正面から奴を見てしまい、笑わずにはいられなかった。 もちろん、シュタインからはゴゴゴ……とドス黒いオーラが出ており、この後マリーの運命は悲惨なことになるのだが、笑いはなかなか止まらなかった。

プリーズイマジネーション』の続き。キスマークもっとつけろ。





(いつかちゃんと書いてみたいネタ.03-2 スピリットとマリー)

「おいおいおい、マリー!!なんだよ、あのシュタイン!ぶっ、思い出しただけでも、くははっ、笑え……ねぇって! 不気味すぎだって!」
言いつつも、どこか笑いを抑えきれないスピリットに問い詰められ、マリーは苦笑いを返すしかなかった。 言い訳は致しません。私が全て悪うございました。 もう今朝から何度同じ質問をされたことか。そのたびにこうやって笑って誤魔化すしかない。 説明するまでもなく予想は出来るだろうし、大爆笑した結果……恐ろしいことになったので、あまり語りたくない。 いくら油性ペンだからと言えども洗えば多少は落ちるというのに、そのまま死武専に来るのは、 何も言えない周囲の反応を見て楽しむのと、確実に当て付けだ。
ドがつくほどのサディスト野郎め……仕返しとばかりに、存分に痕付けたくせに!? まぁ、それでシュタインが満足するなんて思っていなかったが、隠すのにどれほど苦労していることか。 シュタインならばハイネックの服を持っているのだが、サイズが大きいそれを借りたりなんかすれば、 余計な詮索をされ兼ねない。だからと言って開き直ってオープンするなんて、とてもとても……。
「とにかく、責任持ってなんとかしろよ。このままじゃ、直視できない。気になって仕方がない」
「うーん……なんとか頑張ってみますけど」
個人的には死神様が仮面をつけたまま、お茶を飲んで噴くほうが気になるのだけれども。 これ以上被害を拡大させないためにも、そして自身の身の安全も考えて、なんとかするしかないだろう。
とりあえず今夜、問答無用で寝込みを一発ぶん殴って、除光液で擦ってみることに決めた。

某所様がイラストを描いてくださったのを見て更に妄想。





(いつかちゃんと書いてみたいネタ.03-3 シュタインとマリー)

拍子抜けするほどだ。死武専の仲間に問い詰められ、スピリットからは責任を持ってなんとかしろと言われた 落書き事件だが……シュタイン自らが落書きを消していたという結末で、あっさりと終わった。
何を使ってここまで綺麗に消したのかは分からないが、少なくとも除光液ではないだろう。 除光液を顔面に塗るのは肌にとても良くないのは考えるまでもない。 だからこそピンチだった。 知らずに寝込みを襲い、殴ろうとしていた右手を掴まれ(まるでタイミングを計ったかのように)、左手に除光液を 持っている状態で、なんていい逃れをすれば助かるだろうか。 しかもシュタインはそれはそれは楽しそうな笑顔でいらっしゃる。穏便にことを済ませてはくれないようだ。
「マリー?言い訳なら聞いてあげるけど?」
「う……あの、えーっと……」
誤魔化すにも、言葉が見つからない。視線を逸らして必死に考えるものの何も浮かばないのだ。
少しでも罪を軽くするための手段を考えるマリーだが――
「もっとイロイロな場所に、イロイロと痕を付けて欲しいって催促かな?」
――肩をすくめて笑うシュタインに、カチンと来た。
シュタインは体験していないだろうから、軽く笑い飛ばすことが出来るのだ。今日一日だけでもどれだけ苦労したことか。 しかも消えるまで続くと言うのに、催促するはずがない。 落書きをしたのは悪いと思っている。ある程度の仕打ちは仕方がないと思っている。 だが、元を正せばシュタインの普段の行いに対する復讐だったわけで、つまり悪いのはシュタインではないのだろうか。
ふつふつと怒りが湧き起こり、先ほどまでの必死に言い訳を考えていたのが嘘のような行動をマリーは取った。 掴まれたままの腕も気にすることなく、シュタインの襟首を鷲掴みすると、自ら顔を寄せる。 まるで血を求める吸血鬼のように、軽く唇を舐めると、そのままシュタインの首に噛み付いた。 さすがに歯を立てるわけにはいかなかったので、きつく吸う。シュタインの身体が一瞬震えたような気がした。
「……やってやったわ!これでどうよ!私と同じ立場でしばらく苦しむといいわ!」
唇をぬぐって、厭らしさも全開の悪役紛いの台詞を言うマリーは、満足げにシュタインの首につけた痕を見る。
馬鹿にしているからこうなるのだ。同じ苦しみを体験して、苦労を味わえば笑っていられるはずがない。 やられたことは、しっかりとやり返すべし。これこそ復讐だ。
……しかしそれは相手にとっても同じことなのだ。このまま素直に引き下がるわけがなかった。 マリーの行動に、シュタインはそれ以上のことで返してくる。案の定、予想外の発言に撃沈することに。
「悪いけど、俺はこの痕、隠さないよ」
「はぁ……?」
「むしろ見せつけてもいいかな。俺たちデキちゃいました〜♪なんて」
「そ、そうやって負け惜しみを言っても、無駄、なんだから……おかしな冗談は……!」
「負け惜しみ?冗談だと思う?」
あぁ!馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!私の馬鹿! ……ここまで自身を罵ったことが過去にあっただろうか。ここまで悔いることがあっただろうか。 シュタインの冗談はイコール本気だ。明日の死武専はシュタインのアレは一体誰がつけたのか!?で持ちきりになる。 疑われるのは間違いなくマリー。それだけは、本当に勘弁してほしい。
もう認めますから。シュタインは何も悪くない。悪いのは全部私だって。もう絶対にこんなことしないと誓いますから。 だからお願い!絶対に隠して!なにがなんでも隠し通して!
懇願するマリーは、へらへらしたシュタインから『だったら……』と酷な条件を突きつけるのは必至である。

復讐のループループ。奴は留まることを知らない。